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優しい眼差しにまた涙で前が見えない。ぐちゃぐちゃな顔を見られたくなくて,入江の胸に顔を埋めた。
僅かな隙間からも忍び込んで来る優しさに内側から支配されていく。
三津の腕は自然と入江の背中に回っていた。
背中にその感触を感じた入江は口角を上げた。
やっと三津が甘えた。自分を求めた。
こうなれば後はゆっくりと蝕んでいけばいいだけだ。今回の喧嘩は長引くと桂は覚悟していた。
だが予想に反してその日のうちにかたが付いた。打肉毒杆菌
『ごめんなさい,この件はこれで終わりで。』
帰宅した桂に向かって三津は笑ってそう言った。
泣き腫らした目だったが無理して笑ってる感じじゃなかったから気持ちの整理がついたんだと解釈した。
サヤから久坂が三津を連れ帰ったと聞いていたから,その道中で上手く諭してくれたんだろうと思った。
そして今も何事もなかったかのように藩邸に来ている。
「だーかーらー!奥さんにもなりませんし子供も産みませんって!」
「何でや!こんないい男他におらんやろ!」
「兄上の方が格段いい男ですぅー!」
「玄瑞は妻帯者やろが!妾に成り下がるつもりか!」
『何て騒々しいんだ……。』
桂の目の前で言い合いを繰り広げる三津と高杉。
三津を守るように両脇に座する吉田と久坂。それを壁にもたれかかって面白がってる入江。
いい加減高杉を長州へ帰らせるべく広間で話し合いの場を設けたものの,相変わらず三津を連れて帰ると言い張る高杉に苦戦中。
「なぁ一緒に帰ろうやぁ。」
「一応帰る気はあるんですね?」
頼むと手を合わせて三津に頼み込む高杉。胸の前で腕組みをしてうーんと唸り声を上げる三津。
「前に三津さんと河原で話した時点で帰らにゃいけんと思っちょった。
島原で壬生狼の話も聞いたけぇ後は三津さん連れて帰るだけなほっちゃ!」
「そんなん私やなくても……。」
「いけん!三津さんやないといけん!俺は三津さんに支えてもらいたいんじゃ。
見ての通り俺は突っ走る。」
「自覚あるんですね。」
「ある!しょっちゅう投獄されるし仕事で家も空ける。」
「全然傍に居てくれないんですね。」
「おらん!忙しいけぇなぁ!」
「じゃあ尚更私やなくてもいいでしょ!」
それには高杉はかっと目を見開いてずずいと三津に詰め寄った。
「違うぞ三津さん!
家で待っちょってくれるのが三津さんか別の女かで雲泥の差じゃ!
三津さんが俺の子抱えて待っちょるって思ったら俄然やる気も出るし下手な事せんと帰ろう思う。やけぇ俺と来てくれんか?」
『晋作の癖にまともな理由を並べたな。』
桂は顎を擦りながら,果たして三津が何と返すのかと静かに見守った。答えはもう分かっている。
『三津が私の傍を離れるはずがない。』
自分より高杉を選ぶはずがないと自信満々だったから,余裕で目の前のやり取りを眺める事が出来ていた。
「それだけ必要やって言ってもらえるのは有り難いですけど……。」
「三津を必要としてるのは俺も同じだからな。だからお前なんかにやらないよ。」
諦めの悪い高杉に苛立った吉田が口を挟んだ。
すると面白がって眺めていただけの入江も口を開いた。
「じゃあ私が三津さんが必要だから共に長州へ帰ろうって言ったらついて来てくれます?」
どうですか?と笑みを浮かべて三津の目をまっすぐ見つめる。
「なっ!」
三津の顔が赤く染まっていくのを見て入江はより口角を上げた。
「はっ,話が逸れてます!とにかく高杉さんは早急に一人で長州に戻って下さい!
吉田さんと入江さんは余計な事言わないで下さい!」
吉田は余計な事じゃないと不機嫌を極め,入江はごめんねとへらへら笑った。
「あと三日だけ猶予をやる。その間にやりたい事をやれ。それで長州に戻れ。いいか?」
これじゃ埒が明かないと最終的に久坂が案を突き付けた。