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「今なんて?」

「今なんて?」

 

 

「んー?何でもない。次は沖田さんも連れて来るね。」

 

 

それを聞いた宗太郎は目を輝かせながら頷いた。

 

 

「ホンマや斎藤なんか連れとらんと総司にしてや。

総司やないとつまらん。」打肉毒杆菌

 

 

「口悪い奴やなぁ。

あ,そうや。前に言ってた私をつけてるかもしれへん変な人ってもしかして斎藤さん?」

 

 

宗太郎の悪ガキっぷりに苦笑いを浮かべながら聞いてみるが,

 

 

「ちゃう。」

 

 

てっきりそうだと思ってたのに,否定の一言でバッサリ切り捨てられた。

 

 

『斎藤さんやないの

だって前も暇貰って宗太郎とおった時に居てたのは斎藤さんやったのに。』

 

 

「斎藤は初めっから連れとったやん。ほら今やってそこに三津聞いとんか?」

 

 

境内の茂みを指差しながら着物を引っ張る宗太郎の声は,呆然と立ち尽くした三津には届いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

本当に誰かにつけられているのだろうか。

今も近くに居たりするのだろうか。

そうだとしたら気味が悪い。不安になりながら三津は一人で家路を辿る。

 

 

「あっ!」

 

 

「きゃっ!」

 

 

考え事をしていた三津に冷たい水が浴びせられた。

 

 

「えらいすんません!手が滑ってしもた!」

 

 

旅籠の前を通りかかった時,そこの女将に水を掛けられてしまった。

 

 

「私の方こそぼーっとしてたんで!」

 

 

女将が頭を下げて謝り倒してくれるが三津にはそれが申し訳なく思えた。

 

 

「大した事ないんで私はこれで。」

 

 

ぺこりと頭を下げて通り過ぎようとしたが,

 

 

「お待ちください!こんな寒い中濡れたままで風邪引いたらあきません!

部屋なら空いてますから着物が乾くまでゆっくりしてって下さい!」

 

 

行く手を阻まれ,あれよあれよと旅籠の中へ連れ込まれた。

 

 

「乾くまでこれ着といて下さい。後で熱いお茶もお持ちしますんで。」

 

 

女将は一室に三津を放り込んで濡れた着物を引っ剥がし,代わりの着物を押し付けた。

 

 

「あのっ!」

 

 

三津の呼びかけにも応える事なく女将はせかせかと部屋を出て行ってしまった。

 

 

「困ったな。」

 

 

早く帰りたかったのに。

でも流石に襦袢のままでいる訳にもいかないし,何より寒い。

 

 

「早く乾くとええなぁ。」

 

 

仕方なく渡された着物に袖を通した。

 

 

『参ったな。一人じゃ中までは入れんな。』

 

 

三津と同じく困ってる奴が外に居た。暇を持て余し,部屋の隅っこに座り込んでぼんやりと天井を見上げる三津へ,

 

 

「すみません,お茶をお持ちしました。」

 

 

外から声を掛けられた。女将ではなく男の声で。

 

 

「はーい!」

 

 

そんな事は気にしない三津の返事を聞いてから襖が開かれた。

 

 

「お待たせしました。」

 

 

出迎えようと立ち上がり,襖に近づいた三津の前に,その姿を現した。涼しげな目元を綻ばせ,凛々しい唇に弧を描かせて。

 

 

「えっ。」

 

 

踏み出したまま足が止まった。

恭しく膝をつき,湯呑みと急須を乗せた盆を持っている男に三津の心音が激しく動き出す。

 

 

「か。」

 

 

こんな所で会う筈のない彼がいる。

何で何で?驚きと喜びが入り混じって上手く言葉が出て来ない。

 

 

「久しぶりだね。」

 

 

桂は当たり前の様に中に入り襖を閉める。

その眼差しは愛おしそうに三津を見下ろした。

 

 

「本物ですか?」

 

 

何で彼がここに居て,自分の為にお茶を運んで来たのか不思議でたまらずその顔をじっと見つめた。

 

 

「私は私しかいないよ。」

 

 

クスリと笑って桂は腰を下ろして脇に盆を置いた。

それにつられて三津も向かい合って正座した。

 

 

「最後に会ったのはいつだっけ?覚えてる?」

 

 

「はい,覚えてますよ。あの雨の日ですよね。」

 

 

忘れようとしても忘れられないと思う。

そう,あの雨の日の路地で

 

 

『く口付けを。』

 

 

気持ちを確かめ合って,口付けを交わした。

一気に顔が熱くなる。気まずさから顔を俯かせるけど,桂がくすくす笑うのが分かった。

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