「それと松子に手当てされたいからと言ってすぐに負傷して帰ってくるなよ。」
元周にビシッと指を差されて入江の顔は無になった。行きたくないが早くこの場からは離れたくなった。
そして入江と他多数の隊士と小倉へ乗り込んで行った。それを見送った三津はちらっと元周を見た。目があった元周は首を傾げた。
「主人はどうしてますか?」 瘦小腿
三津が主人と言った事に目を見開いたが,すぐににんまり笑みを浮かべた。
「あやつはあやつで苦労しとるぞ。戦況報告を見て援軍をどこに送るや,幕府側の遣いからの対応に頭をずっと使っとる。あれはすぐに禿げるぞ。」
「禿……。まぁ頭丸めてもあの人はどこでも持て囃される事でしょう……。
それより戦中なのに遣いが来るの?何しに?」
「顔がいいと得やな。
遣いは和睦や停戦を求めちょる。あっちが折れたという事は事実上我らの勝利。あと木戸は表には出とらんから安心せい。
桂小五郎は未だ幕府が命を狙っとるけぇ隠しとる状態や。」
『そっか。やから改名したんやもんね。』
「浮気も出来る状態やないけぇそこも安心せい。」
「むしろこの状況でそんな事してたら殺意しか湧かないです。」
それにそんな事心配している場合でもないだろうと,相手が藩主と言うのを忘れて睨んでいた。
「くくっ!いい目や松子。落ち込む姿は似合わん。ここも戦場や。強い意志を持て。伊藤行くぞ。」
颯爽と立ち去る元周の後ろを伊藤は慌てて追い掛けて,一度三津に振り返ってから頭を下げてまたその背中を追い掛けた。
『気を遣われた……?』
三津は去り行く背中を見つめた後,両手で自分の両頬をばちんっと叩いて気合を入れた。
『吉田さん,兄上,武人さん見てて。私もしっかり頑張るから。』
胸の前で手を合わせ,祈りを捧げてから三津は自分の持ち場に戻った。
「木戸さん勝海舟殿が対話を求めておりますが如何がなさいますか。」
遣いの者が書状を手に桂の元を訪れた。桂はそれを手に取りざっと目を通した。
「勝先生直々に私と話とは有り難い事だね。だけど悪いね。桂小五郎と言う男はもう長州藩にはいない。そんな男は長州に居ないと伝えてくれ。」
『あーあ面倒臭い立場だ。先生を疑っちゃいないが今幕府側と接触は出来ないよ。この戦が長州の勝利で終わるまでは。
……三津はどうしてるだろうか。巻き添えなど食らってないだろうか。』
「なぁ小倉口は膠着状態か?」
「いえ,一進一退の攻防です。肥後藩も最新鋭の武器を所持しているとの事。」
それを聞いて唸り超えを上げた。『これ以上長引いて援軍を送り込まれたら厄介だな……。だがまだ小倉城であってこちらへの進軍は阻止してる。晋作踏ん張れよ。』
「晋作っ!」
「九一っ!とうとう来たな。」
「状況は。」
「見ての通りよ。肥後藩がアームストロング砲持っとるんが痛手やな。でも何か様子が変なんや。どんどん攻撃の手が弱まっちょる。何かの作戦かも知らんから様子見ちょる。」
確かに激戦と聞いて来たのにどちらかと言うとこ膠着状態に近い。五万程いた兵もこちらが潰して減ったとはいえ,少な過ぎる気がした。
「高杉さん!高杉さん!報告します!大阪城にて出陣していた家茂公が亡くなられたと!!」
「あ!?死んだ!?将軍がか!?」
桂が白状した三津への付き纏い行為に広間は静まり返った。
「三津さんこの人も大概変態やわ。いいそ?こんな人の傍におっていいそ?」
文は三津の肩を持って目を覚ませと前後に揺らした。すると三津の目がどんどん潤んで湧き出た涙が零れ落ちた。
「ほら!恐怖で泣いちょるぞ!桂さん離れり!」 瘦小腿
高杉がどさくさに紛れて三津の肩を抱いてしっしっと桂に向かって手を払った。
「違うんですぅ……嬉しいんです……小五郎さんそこまでして近くにおろうとしてくれたんやって思ったら……。」
「……は?こりゃ嫁ちゃんの男運やなくて嫁ちゃんの男を見る目がないんや。」
そう言う山縣にフサが真顔でにじり寄った。
「姉上を悪く言わないでください。桂様の行動が異常でも姉上はそこに愛を感じたんですからいいんです。」フサは異常なのは桂であって三津ではないと山縣に何度も繰り返して唱えた。幾松はその傍らで桂に向かってしてやったりな顔をした。
『幾松より三津を選んだ事と出石での一件について腹いせだよな……うん,分かるよ分かる……。私を駄目な人間と皆に知らしめたいんだよな……。』
自業自得なので反論は出来ない。立場が悪くなった時のお決まり,胸の前で腕を組んで口を真一文字に結んだ。
「でも……壬生での生活も全部筒抜けやったのはちょっと怖かった……。」
三津はそう言えば知る筈もない事まで知られていたのは怖かったと当時を思い出して身を震わせた。
「幕府の動きを探る為に送り込んだ間者がいつの間にか三津さん専門の間者になってましたからね……。三津さんやっぱり白石さんのつてを頼って商人とか別の人と縁談もらいましょ?」
伊藤が今からでも遅くないと三津を諭し始めた。文も萩に戻っておいでよと口説いている。
「九一……いつからここは私の心を砕く場になったのだ?」
もう無理心が死んだと桂は項垂れた。
「私で良ければ慰めますよ?あの手この手で。」
「いらん!」
周りは敵だらけだ。唯一の味方は三津のはずだが三津は酔ってるから駄目だと諦めの境地に入った。そんな桂の元へ三津が歩み寄って正面に正座した。
「それでも……空っぽな私に中身をくれたのは小五郎さんです。
新ちゃんが死んでもて生きる意味失くした私を救ってくれたんは小五郎さんなんですよ。女たらしですけど。」
「最後の一言は余計だね。」
ちょっといい話に持っていってくれるのではと期待したのにやっぱり桂の心は打ち砕かれた。三津から浴びせられる女たらしの一言は一番効く。
「今のうちに言いたい事は言っときや?」
赤禰は三津に近寄ってまた少量の酒を与えた。
「武人さん呑ませ方上手いなぁ。三津の事知り尽くしてるみたいでなんか腹立つ。」
入江は笑みを浮かべながらも嫉妬の眼差しを赤禰に向けた。何となく殺気を感じた赤禰はなるべく殺気が漂ってくる方は見ないようにした。
「言いたい事は……沢山……。文句も感謝も伝えたい事はいっぱい……。でも言い尽くされへんから,これから長い時間かけて一つずつ伝えていくから,伝え終えるまで一緒にいてくれますか?」
その言葉を聞いて桂は参ったねと笑った。
「どうせなら酔ってない時に言って欲しかった。明日になれば忘れてるんだろ?」
三津は微睡んだ目で笑っている。
「最期まで一緒に居るから……その言葉をまた聞かせてくれ。」
三津はこくりと頷いた。微睡みながら頷いた三津が眠そうに目を擦るから桂は自分の膝枕で眠らせた。
まだ色々聞きたかったのに寝るの早過ぎなと山縣が文句を垂れた。
「私が答えられる範囲なら答えるよ。」
優しい眼差しにまた涙で前が見えない。ぐちゃぐちゃな顔を見られたくなくて,入江の胸に顔を埋めた。
僅かな隙間からも忍び込んで来る優しさに内側から支配されていく。
三津の腕は自然と入江の背中に回っていた。
背中にその感触を感じた入江は口角を上げた。
やっと三津が甘えた。自分を求めた。
こうなれば後はゆっくりと蝕んでいけばいいだけだ。今回の喧嘩は長引くと桂は覚悟していた。
だが予想に反してその日のうちにかたが付いた。打肉毒杆菌
『ごめんなさい,この件はこれで終わりで。』
帰宅した桂に向かって三津は笑ってそう言った。
泣き腫らした目だったが無理して笑ってる感じじゃなかったから気持ちの整理がついたんだと解釈した。
サヤから久坂が三津を連れ帰ったと聞いていたから,その道中で上手く諭してくれたんだろうと思った。
そして今も何事もなかったかのように藩邸に来ている。
「だーかーらー!奥さんにもなりませんし子供も産みませんって!」
「何でや!こんないい男他におらんやろ!」
「兄上の方が格段いい男ですぅー!」
「玄瑞は妻帯者やろが!妾に成り下がるつもりか!」
『何て騒々しいんだ……。』
桂の目の前で言い合いを繰り広げる三津と高杉。
三津を守るように両脇に座する吉田と久坂。それを壁にもたれかかって面白がってる入江。
いい加減高杉を長州へ帰らせるべく広間で話し合いの場を設けたものの,相変わらず三津を連れて帰ると言い張る高杉に苦戦中。
「なぁ一緒に帰ろうやぁ。」
「一応帰る気はあるんですね?」
頼むと手を合わせて三津に頼み込む高杉。胸の前で腕組みをしてうーんと唸り声を上げる三津。
「前に三津さんと河原で話した時点で帰らにゃいけんと思っちょった。
島原で壬生狼の話も聞いたけぇ後は三津さん連れて帰るだけなほっちゃ!」
「そんなん私やなくても……。」
「いけん!三津さんやないといけん!俺は三津さんに支えてもらいたいんじゃ。
見ての通り俺は突っ走る。」
「自覚あるんですね。」
「ある!しょっちゅう投獄されるし仕事で家も空ける。」
「全然傍に居てくれないんですね。」
「おらん!忙しいけぇなぁ!」
「じゃあ尚更私やなくてもいいでしょ!」
それには高杉はかっと目を見開いてずずいと三津に詰め寄った。
「違うぞ三津さん!
家で待っちょってくれるのが三津さんか別の女かで雲泥の差じゃ!
三津さんが俺の子抱えて待っちょるって思ったら俄然やる気も出るし下手な事せんと帰ろう思う。やけぇ俺と来てくれんか?」
『晋作の癖にまともな理由を並べたな。』
桂は顎を擦りながら,果たして三津が何と返すのかと静かに見守った。答えはもう分かっている。
『三津が私の傍を離れるはずがない。』
自分より高杉を選ぶはずがないと自信満々だったから,余裕で目の前のやり取りを眺める事が出来ていた。
「それだけ必要やって言ってもらえるのは有り難いですけど……。」
「三津を必要としてるのは俺も同じだからな。だからお前なんかにやらないよ。」
諦めの悪い高杉に苛立った吉田が口を挟んだ。
すると面白がって眺めていただけの入江も口を開いた。
「じゃあ私が三津さんが必要だから共に長州へ帰ろうって言ったらついて来てくれます?」
どうですか?と笑みを浮かべて三津の目をまっすぐ見つめる。
「なっ!」
三津の顔が赤く染まっていくのを見て入江はより口角を上げた。
「はっ,話が逸れてます!とにかく高杉さんは早急に一人で長州に戻って下さい!
吉田さんと入江さんは余計な事言わないで下さい!」
吉田は余計な事じゃないと不機嫌を極め,入江はごめんねとへらへら笑った。
「あと三日だけ猶予をやる。その間にやりたい事をやれ。それで長州に戻れ。いいか?」
これじゃ埒が明かないと最終的に久坂が案を突き付けた。
「今なんて?」
「んー?何でもない。次は沖田さんも連れて来るね。」
それを聞いた宗太郎は目を輝かせながら頷いた。
「ホンマや斎藤なんか連れとらんと総司にしてや。
総司やないとつまらん。」打肉毒杆菌
「口悪い奴やなぁ。
あ,そうや。前に言ってた私をつけてるかもしれへん変な人ってもしかして斎藤さん?」
宗太郎の悪ガキっぷりに苦笑いを浮かべながら聞いてみるが,
「ちゃう。」
てっきりそうだと思ってたのに,否定の一言でバッサリ切り捨てられた。
『斎藤さんやないの…?
だって前も暇貰って宗太郎とおった時に居てたのは斎藤さんやったのに。』
「斎藤は初めっから連れとったやん。ほら今やってそこに…三津聞いとんか?」
境内の茂みを指差しながら着物を引っ張る宗太郎の声は,呆然と立ち尽くした三津には届いていなかった。
本当に誰かにつけられているのだろうか。
今も近くに居たりするのだろうか。
そうだとしたら気味が悪い。不安になりながら三津は一人で家路を辿る。
「あっ!」
「きゃっ!」
考え事をしていた三津に冷たい水が浴びせられた。
「えらいすんません!手が滑ってしもた!」
旅籠の前を通りかかった時,そこの女将に水を掛けられてしまった。
「私の方こそぼーっとしてたんで!」
女将が頭を下げて謝り倒してくれるが三津にはそれが申し訳なく思えた。
「大した事ないんで私はこれで…。」
ぺこりと頭を下げて通り過ぎようとしたが,
「お待ちください!こんな寒い中濡れたままで風邪引いたらあきません!
部屋なら空いてますから着物が乾くまでゆっくりしてって下さい!」
行く手を阻まれ,あれよあれよと旅籠の中へ連れ込まれた。
「乾くまでこれ着といて下さい。後で熱いお茶もお持ちしますんで。」
女将は一室に三津を放り込んで濡れた着物を引っ剥がし,代わりの着物を押し付けた。
「あのっ!」
三津の呼びかけにも応える事なく女将はせかせかと部屋を出て行ってしまった。
「困ったな…。」
早く帰りたかったのに。
でも流石に襦袢のままでいる訳にもいかないし,何より寒い。
「早く乾くとええなぁ…。」
仕方なく渡された着物に袖を通した。
『参ったな…。一人じゃ中までは入れんな。』
三津と同じく困ってる奴が外に居た。暇を持て余し,部屋の隅っこに座り込んでぼんやりと天井を見上げる三津へ,
「すみません,お茶をお持ちしました。」
外から声を掛けられた。女将ではなく男の声で。
「はーい!」
そんな事は気にしない三津の返事を聞いてから襖が開かれた。
「お待たせしました。」
出迎えようと立ち上がり,襖に近づいた三津の前に,その姿を現した。涼しげな目元を綻ばせ,凛々しい唇に弧を描かせて。
「えっ…。」
踏み出したまま足が止まった。
恭しく膝をつき,湯呑みと急須を乗せた盆を持っている男に三津の心音が激しく動き出す。
「か…つ…。」
こんな所で会う筈のない彼がいる。
何で何で?驚きと喜びが入り混じって上手く言葉が出て来ない。
「久しぶりだね。」
桂は当たり前の様に中に入り襖を閉める。
その眼差しは愛おしそうに三津を見下ろした。
「本物ですか?」
何で彼がここに居て,自分の為にお茶を運んで来たのか不思議でたまらずその顔をじっと見つめた。
「私は私しかいないよ。」
クスリと笑って桂は腰を下ろして脇に盆を置いた。
それにつられて三津も向かい合って正座した。
「最後に会ったのはいつだっけ?覚えてる?」
「はい,覚えてますよ。あの雨の日ですよね。」
忘れようとしても忘れられないと思う。
そう,あの雨の日の路地で…。
『く…口付けを…。』
気持ちを確かめ合って,口付けを交わした。
一気に顔が熱くなる。気まずさから顔を俯かせるけど,桂がくすくす笑うのが分かった。
一応、そういう史実だからである。
俊春についてゆくことにした。
そして、おれたちは五稜郭の榎本の部屋へ赴いた。
島田と相棒もいっしょである。
安富らもきたがった。しかし大勢で訪問しようものなら、とらえようによっては「新撰組謀反の図」みたいになるかもしれない。
だから、瘦小腿 島田と相棒とおれのだけついてゆくことになった。
俊春は、俊冬の頸をありったけの布で巻いた。それこそ、シャツや軍服の上着やズボンといったものまで使った。
それでも血で真っ赤になっている。
それを掌にぶら下げている姿は、コンビニで買い物した帰りみたいにみえてしまう。
俊春は、それほど飄々としている。
あきらかに無理をしている。それがわかるだけに、みていてつらくなる。
榎本がつかっている部屋のドアをノックすると、「どうぞ」と返答がかえってきた。
島田とおれが先に入室し、俊春と相棒がつづく。 榎本の執務室は、実にシンプルである。
榎本は、執務机の向こうに座っている。そして、大鳥が廊下側の長椅子に座っている。
どうやら二人は酒を、具体的にはワインを吞んでいるようである。
執務机上にワインの瓶が置いてあるのをみるまでもなく、執務室のドアを開けただけでアルコールのにおいが鼻をついた。
窓が開いているにもかかわらず、部屋の内にこれだけにおいがこもっているのだから、相当吞んでいるのであろう。
「おくつろぎのところ、申し訳ありません」
島田がきりだした。
ふだん温厚なかれにしては、ずいぶんと険のあるいい方であった。
「おおっと、新撰組の幹部が揃ってどうした?」
榎本が、ワイングラスがわりの湯呑みをかかげてきいてきた。
『新撰組の幹部が揃ってどうした?』
ということは、おれも幹部の一人として認識されているわけだ。
ちょっとだけテンションが上がった。
ってそんな場合ではない。
いまのその問いである。
どうしたもこうしたもないだろう?
かれの酔眼を睨みつけながら、ツッコまずにはいられない。
二人で呑んでいるのは、なにかの祝いなのか?
そう勘繰らざるを得ない。
たとえば、土方歳三が戦死したということを祝ってとか……?
榎本は執務机から、大鳥は長椅子でをこちらへめぐらせ、それぞれを向けてはいる。
しかし、とけっして合わせようとはしない。
は、あきらかにうしろめたさがあらわれている。
忘れられていてはいけないので、「昔取った杵柄」というのは、おれが現代にいたのスキルのことである。
念のため、補足説明しておきたい。
って心の中で説明している間に、すぐうしろにいるはずの俊春がいなくなっている。
「なっ、なにをしやがる?」
を執務机におさえつけていた。
めっちゃ暴挙である。
だが、島田も相棒もおれも傍観している。
そのとき、大鳥が立ち上がりかけた。
「大鳥陸軍奉行、座っていた方が身のためだと思いますがね」
島田がその大鳥の華奢な肩に掌を置き、忠告をしながら無理矢理座り直させた。
「陸軍奉行並が死んだ」
俊春がいった。その声音は、ぞっとするほど冷たい。
「戦死に見せかけ、背を撃たれた。敵にではない。味方に、だ」
さらに冷たい声が、音のない室内に響き渡る。
「敵と交渉し、貴様らのを助けてもらう手はずを整えてやった」
は、冷たい声でつづける。
かれはそう告げるなり、掌に持っている俊冬の頸を机の上におさえつけている榎本の鼻先に落とした。
榎本も大鳥も、それがなにかを即座に悟った。
驚愕以上の表情が、どちらのにも刻まれた。
「この頸のお蔭で、貴様らは生を繋ぐ。味方全員を救い、一生涯配慮せよ。そして、土方歳三のことで一生涯後悔しろ。もしも貴様らがそれを忘れるようなことにがあれば……」
かれは左掌の三本の指で榎本の頸をつかみ、力を加えた。
「この頸のようにしてやる。否、恐怖と屈辱にまみれた人生を味あわせてやる。忘れるな。「狂い犬」は、子犬の皮をかぶりし餓狼だ。貴様ら自身だけではない。貴様らの親類縁者、子々孫々まで呪い祟ってやる」
俊春の厨二病的な脅しに、大鳥の華奢な背中がめっちゃ震えだした。彼は、マジでビビりまくっているのである。
いまにも俊春に頸を握りつぶされようとしている榎本にいたっては、
榎本の悲鳴にも似た問いがきこえたときには、俊春が
昔取った杵柄ではないが、いまの二人の